ALS女性の安楽死事件について思うこと

京都のALS女性に対し薬物を投与したとして医師2名が逮捕された。嘱託殺人ということだ。嘱託殺人とは、被害者の依頼や同意により殺害する行為を言う。
僕自身もALSの方の看取りを経験したので、このことについて書いてみようと思う。
まず最初に書いておくけど、医師2名は悪い人だと思う。そこがスタートラインね。

目次

まずはALSについて

どこのサイトを紹介するのが適切なのか、そこから悩んだけど、できるだけニュートラルな場所を選ぶべきだと思って「難病情報センター」を載せてみる。

www.nanbyou.or.jp

指定難病にくくられる病気で、発病の原因が明確でないために治療方法が確立しておらず、長期の療養を必要とする疾患のこと。
世界でよく知られた著名人だと、お亡くなりになられたが天文学者であり数学者のスティーブン・ホーキング氏。発症されてから大変長い時間を過ごされていた。

ja.wikipedia.org

僕が担当していた女性ALS患者さん

僕が担当していた女性患者さんのことを紹介すると、
初対面のときは、車いす生活で意思疎通は普通に会話できるし文字を読むことはできるけど、文字を書くことはできない。認知機能は正常。食事は皿を並べ替えたり、最後の一口を運んだりという程度の一部介助。自分で寝返りはできないので体位変換は2時間おきに全介助で行う。排泄は大も小も全介助でポータブルトイレ。やや便秘気味。夜間帯になると下肢に疼痛(足が痛む)があって不眠状態が続いていた。体重は軽いものの(約40kg)身長が高いために、介助するのに体格差のバランスを考慮しなければならない状態だった。認知機能が正常ということもあり羞恥心は拭いきれないので、入浴、排泄の介助は男性も行うため(というよりも男性でないと体格的に難しい)、信頼関係の構築は重要だった。驚くほど神経質な方で、目に見えている範囲のものが5cmずれていると修正を訴える。

看取りまで

僕が勤めていた施設に入居してから、お看取りさせていただくまで約1年間だった。発症してからの時間は確認していないが、僕らと過ごした時間を365日と考えるとかなり時間が経っていたと思うし、毎日のように少しずつ何かができなくなるというのを実感できていた。排泄のあとお下をきれいにするのも、入浴で洗身するのも僕ら男性介護職員も行う。皮膚が弱いために僕らの「素手」で洗身を行う。
さて、ここでこの投稿を読んだ女性の方に尋ねてみたい。

「あなたは、生きていくために男性介護職員に自分の陰部を素手で触られることに抵抗はないだろうか?」

抵抗あると思う。ただし、慣れるものでもある。介護職員に素手で陰部や胸を触れることに慣れる。その抵抗感は完全には払拭できないと思うけど…
生半可な人間関係の構築ではないことが想像できると思う。認知機能が正常なだけに、信頼関係は絶対的な強さを要求される。

さて、日々何かができなくなると書いたけど、何かができなくなると、本人の口から「死にたい」という言葉が出るようになる。そういう気持ちになるのも無理はないと思うが、僕らは同情するというよりも、気持ちを別な方向に向かせるように努力する。楽しかった想い出を聞いたり、その時の世相を面白おかしく話聞かせる。この気持を死から別な方向に向かせるというのは、とても大事だと思う。なぜなら、そういうときは声も活き活きとし笑顔も出てくる。「笑顔最強!」って覚えておいてね。
全身の筋肉や関節が日に日に固くなっていくし、言葉を発することも難しくなる。最後の最後は意思疎通は「あいうえお表」を使って意思疎通を行うことになる。「はい」「いいえ」はもちろん入るし、例えば「窓を開けて」、「反対を向く」、「お茶が飲みたい」、「水が飲みたい」、「痛い」なども含んでおく。これを透明の板に書いて、僕らが指で言葉を指しながら目線を追うんだけど、だいたい「背中がかゆい」ぐらいのことが分かるのに10分の時間を要する感じ。
そうこうしていると、全身状態の悪化が顕著になってきていた。食事が口を通らなくなり、当然ながら排泄物も激減する。でも食事をしないからと言って、便が出なくなるのではない。消化器官は新陳代謝が激しいので何かは出てくる。お亡くなりになる1週間前は、おそらく意識は明快だと思うのだが、なんとも言いようがないニオイが全身から漂ってきていた。ある朝、僕がそばに行ったときに「窓を開けてほしい」という訴えがあって空気を入れ替えた。その10分後に心肺停止となった。

僕が言いたいのは

亡くなった女性の気持ちはその人しか分からない。それを想像で語ることは僕にはできない。安楽死、尊厳死の話題も「自分には尊厳死を認めてほしいと思うけど、他人の命に関しては軽々しく言えない」とか。「愛する人の尊厳死を認める??」とか、そう簡単じゃない。人の英知を集結しても解決できないってこともあるってこと。

ただね…

どんなに苦しくても辛くても、生きていれば笑顔が出てくる瞬間がある。そう!大事なことなのでもう一度書いておこう。

笑顔最強!

死んでしまうと笑えないよ。ちなみに意識が遠のいてきても笑えないと思うけど、その時は苦しみも減っていると思う。思えば「生きる」って「笑える」ってことなんだろう。
やっぱり笑顔最強なんだ。

エピローグ

ALSは本人も辛いし苦しい。介助する側も困難事例として消耗していくのは間違いない。でも、お互いに生きていれば笑えることがある。
嘱託殺人を依頼した(と推測される)女性は「笑えなくなった」のかもしれないけどさ。

「あなたの笑顔が見たいから、あなたの命を大切にしてほしい。あなたの笑顔を想い出だけにしたくないから、あなたの命を大切にしてほしい。大切な人の笑顔を見たいと思うのなら、あなたの命を大切にしてほしい」

「生きてほしいと思うことは悪いことなんですか?」ってお医者さんがいて、これには反論できなかった。それが最初に2人の医師が悪い人って決めちゃった理由ね。

って感じ!終わり!

f:id:benzpapa:20200724151704j:plain

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!

この記事を書いた人

チームワークを得意とする介護業界に勤めるサラリーマン。Macで仕事をしていますが、それだけでモチベーションが上がります。時々、山に登ります。コタローという名の保護猫を飼っています。ゆったりマイペースで参りますので、よろしくお願いします。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次